オリンピック・リヨンが米事業家テクスター氏に売却された背景を探ったツイートの紹介記事になります。
[THREAD] オリンピック・リヨン売却の裏側
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
リヨンが米事業家テクスター氏へと売却されました。今後3年間はオラス会長が経営責任者の地位に留まりますがリヨンは新たな方向へと向かいます。
以下では会計情報をもとに選手育成型クラブ運営の雄でもあるリヨン売却の裏側を探ってみましょう。
5大リーグで2013年以降、選手売却と選手獲得の移籍金の差額が大きかった順に並べると、リール、リヨン、モナコ、ウディネーゼ、アタランタの順になります。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
実はリールも2020年に負債を返済できず、投資ファンドのエリオットへと経営権が移っています pic.twitter.com/WCnRPBai7U
リールとリヨンの経営権変更に大きく影響した要因に、COVID-19による移籍市場の冷え付きとリーグ1の放映権問題があります。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
リヨンの場合には加えてスポーツ面での低迷とOLランド計画の負債という別の問題もあります。それぞれについて見ていきましょう。
1. 税引き前利益の推移
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
COVID-19前の4シーズンは黒字でしたが、シーズン中止となった2019/20シーズン以降、大きな赤字となってます。 pic.twitter.com/eM3uL3eKPa
2. COVID-19と移籍市場
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
5大リーグで成立した取り引きの移籍金総額の推移を見ると、2020夏から2021夏までの3回の移籍市場で大きく冷え込んでおり、その後、大きく回復していることが分かります。 pic.twitter.com/tBcOldsTz4
5大リーグの内訳に目を向けると、PLはCOVID-19直後の2020年(グラフの8)でも大きく落ち込まず、逆に2022年(10)には過去最高を記録しています。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
一方、リーガとセリエAは特に大きく落ち込み、未だ回復していないことが分かります。 pic.twitter.com/zamFalwIfT
リヨンの移籍金の支出(青)と収入(紫)の推移を見ると、2015/16シーズン以降、選手売却は€50mを超えています。COVID-19直後の2021年夏にデパイやアワールの売却が実現せず収入が減りましたが、何とか維持しています。
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COVID-19の影響が見て取れるのは選手獲得の方でこちらは極端に削減しています。 pic.twitter.com/AhoZakomkh
3. ピッチ上での成績
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
選手売却を大きくは減らさず獲得を大胆に削減したところ、ピッチ上での成績が悪化しました。
2016/17, 4, CL
2017/18, 3, EL
2018/19, 3, CL
2019/20, 7*, CL
2020,21, 4, 不出場
2021/22, 7, EL
2022/23, 8, 不出場
* リーグ打ち切り
4. 収益の推移
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2018/19までは順調に伸びてましたが、COVID-19の影響により2020/21に大きく落ち込み、2021/22に戻したもののCOVID-19前の水準には回復していません。
収益の内、最も大きな割合を占めるのが選手売却益(茶)です。全体の20-40%を占めています。 pic.twitter.com/vjiSePoG0L
5. UEFA大会からの収益
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UEFA大会の放映権(緑)がCLに出場した2018/19 & 2019/20 シーズンと比べて、2020/21 (不参加) & 2021/22シーズン (EL) に大きく減少しています。
* 2020/21シーズンの€27mはシーズン中断によるもので本来は2019/20シーズンに計上されるべき収益 pic.twitter.com/yJn9143BIm
UEFA大会に出場することで得られる €10m前後のチケット収入も合わせると、ピッチ上での成績低迷がリヨンの収益を大きく低下させており、巨大な損失の要因になっていることが分かります。 pic.twitter.com/dvR83eSNBG
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
6. 国内放映権問題
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
国内放映権問題もリヨンやリールの経営権移転の大きな要因です。
リーグ1は放映権収益の伸び率はプレミアはもとよりブンデス・リーガ・セリエAにも遅れをとっていたのですが、2018年に前クールより60%増収という画期的な契約を結ぶことに成功しました。 pic.twitter.com/HlYgg971Q7
ところが新クールが2020/21シーズンに始まるや否や放映権者であるMediaproがCOVID-19を理由に撤退してしまいます。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
再入札を実施してアマプラが2021/22シーズンからの放映権を取得したものの前クールより低い金額での契約でした。 pic.twitter.com/O2Xo210s4c
人気が低迷するセリエAの放映権も国内・海外のいずれも前クールより減収となっています。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
ところがリーグ1の減収はそれを上回るものとなり更に差が開く結果となりました。
それにしてもプレミアの海外放映権はリーグ1の約30倍と凄まじい... pic.twitter.com/YoGGdB0biC
国内放映権(灰)はリヨンの年間収益の20-25%を占める安定財源です。60%の増収の見込みがまさかの減収となったショックの大きさは言うまでもありません。 pic.twitter.com/ezSnijmCf8
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
7. OLランド
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
リヨンはスタジアムの新設に加えて室内競技場・コンベンション・ホテル・オフィス・メディカルタワーなどを整備するOLランド計画を推し進めています。
フランス国内でパリのディズニーランドに次ぐ集客を目指す野心的な取り組みです。
2015/16シーズンの途中に新スタジアムがオープンし、それ以前よりもチケット収入(青, 橙)やイベント収入(黄緑)が増えました。 pic.twitter.com/rzYVZquYve
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
OLランド整備のために外部資本から資金調達しており、負債(緑)は2014/15シーズンを境に大きく増加しています。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
利息(ピンク)もそれに合わせて増えました。 pic.twitter.com/z5futvIh29
リヨンは2015/16-2018/19シーズンは黒字を計上しています。野心的なOLランド計画から得られる収益や国内放映権の増収とともに新たなステージへとうまく進みかけていたようにも見えます。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
しかし、そこでCOVID-19が発生しました。 pic.twitter.com/VW7jGkSS4Q
過去最高を記録した2018/19シーズンの収益内訳を見ると、選手売却益(茶)とUEFA大会放映権(緑) が50%以上を占めていて元々不安定な収益構造でした。
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
OLランド計画は収益源を多角化する取り組みといえますが、COVID-19により逆にチケット収入やイベント収入が大きく減ってしまいました。 pic.twitter.com/k7ERvsbq8a
8. まとめ
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
経営権移転の背景には3つの要因があったと言えます
1) OLランド計画を進めていた矢先にCOVID-19が発生
2) 選手売却益とUEFA大会放映権収入への依存度が高い不安定な収益構造
3) 移籍市場の冷え付きによるピッチ上の成績低迷と国内放映権収益の減収という想定外のショック
背景が黒いグラフはリヨンのannual report の数字(一部swissramble氏の資料から数字を拝借)を元にした手作りです
— じぇふ (@arsenalitics1) 2023年1月1日
背景が白い図表はリヨンのannual report から引用しています