移籍市場の理解に有益なアーセナル関連ジャーナリスト

アーセナル関連のジャーナリストの紹介記事です。移籍情報をすべて追うためにフォローすべき人を列挙するのではなく移籍市場の動きを理解するために有益なジャーナリスト (あるいは反面教師となるジャーナリスト・情報ソース) を紹介していきます。

 

 

Fabrizio Romano

圧倒的な情報量・信頼性・速報性を誇る移籍情報のguru。大物代理人とのネットワークを通じて掴んだ情報を特ダネ (exclusive) として報道することもありますが何よりも重要なのは移籍情報のハブとして機能している点です。ドミノ現象がつきものの移籍市場の理解には個々のクラブを追ってるだけでは不十分、市場全体を網羅的に追う必要があります。

情報の信頼性も特筆すべき点です。キャッチフレーズの "Here We Go" はクラブの公式発表とほぼ同じ。彼のツイートさえ追っていれば主要選手の移籍をすべて捕捉可能といっても過言ではありません。

片野道郎氏によると元々は Sky sport のデマルツィオ・グループの一員。同グループがセリエを対象として培ってきた手法を英語圏に展開したそうです。本人曰く、若いころは(今でも十分若いですが)ミラノ市内の代理人がよく使うホテルで張り込み取材のチャンスをうかがっていたそうです。

TwitterやYoutube、ポッドキャスト、サブスクMLなど多様なチャンネルを通じてリアルタイムで移籍情報を発信します。内容もオフィシャルなオファーの有無から交渉の参加者、交渉期限の設定の有無、噂の案件についての各クラブのスタンス等々、視聴者の疑問に答える形で詳しく解説します。解説は平易ですが理屈を押さえています。ファイナンスや交渉術に関するバックグランドがあれば移籍交渉の進め方について有益な知見を得られるでしょう。信ぴょう性の低い噂については分からないとはっきり言ってくれる点でも好感度が高いです。

滑舌が良く動画やポッドキャストを早送りしながら聴けるのも👌チーム内にエゴサ担当がいるのか、Fabしか手がかりがないのに他のジャーナリストのコメント欄に突然首を突っ込みツイッタラーを驚かせることもあります。

 

David Ornstein

プレミアリーグの話題についての圧倒的な情報量と信頼性。特にアーセナルについては唯一無二の存在といえます。チェルシーのトライアルを受けるなどフットボーラーを目指していたそうですが、その道を進むのが難しいと分かり、メディア関係(ラジオ?)の親戚の手伝いをしているうちに業界に関心をもち始め、ボーンマス大学のメディア学科 (?) に進学したとか。在学中に長期インターンシップで実務経験を積むとともにジャーナリストとしての心がけを徹底的に叩き込んだそうです。

BBCからThe Athleticへと活動の場を移してからは移籍市場だけでなくクラブの長期計画やオーナーシップ、ビジネス面など様々な角度から取材してアーセナルというクラブを掘り下げる内容の濃い記事を執筆しています。

移籍市場についても2020年末にクラブのターゲットが10番とCBであることを報じ、ホワイト獲得に乗り出したことを他に先駆けてスクープするなどクラブ内部にハイレベルのソースを持っています。The Athletic が社内規定で裏どりできていない情報を流すことを禁じているため速報性では Romano 氏に劣る部分もあります。しかしながら一番重要な動きをすっぱ抜くのは大抵Ornstein氏です。

Covid-19感染者が出た場合のPLとの折衝やプロトコル遵守状況の臨時検査の受検といったアーセナルFCが公式に発表しにくい内容を外部にリークするチャンネルとしての役割も果たしています。センシティブな話題を扱うときの言葉のチョイスや内容のさじ加減などジャーナリストとしてのスタンスも素晴らしいです。

 

 

James McNicholas

The Athleticの記者で gunnerblog  を運営。最近は Youtube 動画もはじめました。Arsecast Podcast (Extra Ser.) にも毎週登壇しており、その時々の話題について解説しています。

取材で得た特ダネを報じるというよりクラブのビジョン・マネジメント体制・中長期プランなどと関連させながら移籍市場での立ち回りやチームのパフォーマンスについてアーセナルFCを深堀りします。Ornstein氏と共にクラブ内部のソースに取材して速報性の低いものについてはMcNicholas氏が記事にしていることが多い印象です。移籍市場が閉じるや否や The Athletic にあがる「アーセナルが移籍ウィンドウ内でいかに立ち回ったか」のまとめ記事は特に有益です。最近は取材を通じて得た知見を活かし、移籍交渉がどのようなプロセスで行われるかをポッドキャストやYoutube動画で解説したりします。

余談になりますが兄弟の Charlie McNicholas はラムズデールのエージェントを務めています。

 

Amy Lawrence

The Athletic の記者でクラブのビジョンやカルチャー、ファンとの連帯といった情緒的部分について多くの記事を執筆しています。ピッチ上のマネジメントは McNicholas氏、ピッチ外のマネジメントはLawrence 女史が主に担当しているとも言えます。

彼女の記事そのものは移籍情報にあまり触れません。しかしながらアーセナルの移籍情報を理解するうえで最も重要である「アルテタの記者会見やエドゥのインタビューの読み解き」において、彼女の記事を読んでいるかどうかで行間を読み取る能力が格段に違ってきます。Tier2.5-3.5 のジャーナリストが報道する移籍の噂などより遥かに重要と言えるでしょう。

他に特筆すべき点として英語の美しさを指摘できます。彼女の記事を読むには一定の語彙力が求められ、少なくともブログ主はすらすらと流し読みできませんが、侘び寂びの効いた趣き深い英語を使われます。

 

Ben Jacobs

フットボールにとどまらずゴルフ・テニス等にも関わってきたフリーランスのスポーツ・ジャーナリスト。Ben-jacobs.com によるとBBCでフットボール関係のレポーターを務めた後、活動の拠点を中東(UAE?)に移し、ラジオ番組のプレゼンター・コメンテーターやBeinスポーツの英語ニュースの編集責任者、スポーツ雑誌の創刊などに携わってきた経歴の持ち主です。現在はフリーランスとして各種メディアを通じてフットボール・ビジネスからデータ分析の動画まで幅広い情報発信を展開しています。

最近ですと、サウジ・プロリーグの狙いや戦略、あるいはマンチャスター・ユナイテッドのクラブ売却交渉の進展についての詳しい解説が参考になります。移籍市場を理解するうえで欠かせないフットボール・ビジネスの展開について多くの exclusive な情報を発信しています。株式を取引する際に金利などのマクロの経済指標から目を背けて個々の企業の株価ばかり追っていたらどうしようもない投資家と言わざるを得ません。移籍市場についてもまったく同じことが言えます。しっかり理解したければ移籍市場をとりまくマクロ経済や地政学についての知識が必須です。Jacobs氏はフットボール・ジャーナリストの中ではそうした話題を一番多く報道してくれる貴重な存在です。

個々の移籍案件に目を向けると、移籍交渉の進展についてリアルタイムに情報発信していますが、それよりも移籍交渉の初期段階や途中段階における各クラブの立ち回りや思惑、交渉の争点についての丁寧な解説が有益だと思います。2023年冬のミヒャエル・ムドリクの移籍交渉でも、シャフタール・ドネツクとの交渉の難しさを詳しく解説していました。

 

Charles Watts

Football.LondonGoal.com のアーセナル番を経て最近独立。Goal.com でスパーズやチェルシーも担当させられ、それが苦痛で独立を決心したとか(笑)。クラブ内部のソースに取材して記事を執筆するというより、現場で掴んだ細かな情報をおもに報道します。

移籍市場については2020年夏のデッドラインデイにトーマス・パーティー獲得に動いていることを報じるなど、たまにスクープもありますがクラブ内部にハイレベルの情報源を持ってる訳ではなさそうです。2021年夏にブエンディアへのオファーが報じられた際は、自身のYouTubeチャンネルにて ”色々な人に当たったけど正式なオファーをしたかは分からない” と繰り返していました。

ほぼ毎日更新している YouTube 動画では移籍の噂も取り上げますが、自身の解釈や考察が中心で特に新しい情報を報じることはありません。それよりもアーセナルの試合内容を喜んだり悲しんだり視聴者の気持ちを代弁する姿が印象的です。ファン代表といった趣きのジャーナリストです。

 

Chris Wheatley

Football.London を経てどこだかに移籍した初日にジャーナリストとしての信頼を失墜させる大チョンボをやらかした人。現在は National World Publishing のフットボール番をしているようです。

移籍情報については Football.London 時代に積極的に発信していましたがクラブ内部にハイレベルのソースを持っている訳ではなく代理人からのリーク頼みでした。そもそも Football.London 自体が信憑性の極めて低いメディアでアーセナルに関係する内容を報じている海外メディアがあればそれをほぼ翻訳して垂れ流します。Wheatley氏が報じていた情報は、そうしたゴミ記事ではありませんでしたが、例えば、色々とうるさいトレイラ代理人がクラブと駆け引きするための情報発信に手を貸す代わりに、ヴィオラ移籍の情報(代理人から入手した契約書サインの瞬間の写真など速報性は高い)をバーターとして入手して exclusive として報じていました。2021年夏にアーセナルがマディソン獲得に動くと報じたときも似たような感じでいわゆる代理人に利用されるタイプのジャーナリストと言えます。

EURO2020で心肺停止したエリクセンが持ち直した際に、それを報じた Romano氏に対して何が気に入らなかったのか "恥をしれ" と暴言をはいたことも。(安堵している家族の写真をSNS上に投稿したのが気に入らなかった?)

当時、多くの情弱グーナーが "最近は Chris Wheatleyが一番信頼できる" と見当違いなことを言い放っていましたがブログ主は当時から "写真週刊誌の記者みたいなやつ" と否定的。一年前にWheatley氏がやらかした時の感想も"それ見たことか" でした...

 

The AFC Bell(活動休止)

2020年夏にトーマス・パーティの移籍を予言、Ornstein氏やRomano氏がアーセナルはパーティ獲得から距離を置いているようだと発言している間も "アーセナルはパーティを獲得する" と言い続け、予言が実現したことで熱狂的信者を集めた通称ベル神。

その正体はアラビア語圏向けの aggregator でエミレーツ内のレストラン・シェフにインタビューするといった独自企画にも取り組んでいた ArsenicTM の運営メンバー。ジャーナリスト的な活動の試みとしてパーティ・キャンプとのコネクションを築き、そこで得た情報をアラビア語で TheAFCBell のアカウントを通じて預言者かのように発信したのが始まり。

実はアーセナルの2020年夏の移籍オペについては移籍ウィンドウが閉じた後に The Athletic によって詳細に報じられました。その時点でパーティ獲得がアワール獲得の失敗やチェルシーによるジョルジーニョ放出拒否によって消去法的に実現したことが明らかにされています。ところがそうした情報は広まらず、翌年も🔔がマディソン移籍を預言して多くのファンをドギマギさせたのはご存じの通りです。それだけなら笑い話でよいのですが、Romano氏が "アーセナルのプライオリティは一貫してウーデゴール、マディソンに対する関心はあるけれど具体的な動きはない" と🔔とは異なる情報を発信する度にベル信が彼を誹謗中傷する始末(怖)。 (補足:当時ウーデゴールの獲得に対して一定数のグーナーが猛反対していたという背景があります。)

ブログ主は🔔の正体を知っていたので高みの見物でしたが、いかに多くの人が自分の信じたいものしか信じないかがよく分かりました (笑)。

 

Tier2.5-3.5のジャーナリスト

具体的に名前をあげると Sam Dean (Telegraph), Simon Collings (Standard Evening), Jacob Steinberg (Gurdian), James Benge (CBS), James Olley (ESPN), Sami Mokbel (Daily Mail), Mark Irwin (The Sun) といった面々です。

結論から先にいうと移籍の噂に踊らされたいのであれば彼らの情報を追う価値はありますが、移籍市場について理解を深めたいのであれば追う必要性はほぼゼロです。Romano氏とOrnstein氏を定点観測していた方がはるかに有益です。

上で挙げた方々はクラブや代理人から独自に入手した情報を流しますが exclusive として報じる場合の情報ソースはほとんどの場合、選手サイド。信頼性はかなり低いです。例えば、リース・ネルソンは契約延長交渉において何度かクラブからのオファーを断ったのですが、その度に Mokbel 氏が「選手はオファーを拒否、夏にフリー移籍する」と報じ、Romano 氏が「選手はオファーを拒否したが交渉はまだ続いている」と訂正していました。この例のように部分的には正しくても全体として誤っている情報が報道される訳です。他にも今夏のクラブ予算は200Mポンドといった外部に漏れるはずのない情報を適当に記事にしていたり、FFP関連でいい加減な記事を書いているケースが散見されます。誤りをふくむ情報を数時間はやく入手したからといって移籍市場を理解するうえでは何の役にも立たないことはお分かりいただけるでしょう。

上で名前をあげた方のなかだとDean氏やCollings氏は目新しい情報もない反面、余計なことを言わない印象です。逆にMokbel氏やIrwin氏は正しい場合も間違っている場合もあるexclusiveを報じることが多い気がします。いずれにせよ上記ソースは移籍市場を理解したい人にはお勧めしません。もちろん噂に踊らされたい人にとっては楽しいメディアですし、選手の独占インタビュー記事なども当然面白いので、ご自身のスタンスに合わせて内容を選んで付き合っていくのが良いと思います。

なお、ブログ主はFFPの仕組みを普通の人より詳しく理解しているため、FFP関連でいい加減なことが書いてあればすぐに分かりますし、Romano氏やOrnstein氏のような一流ジャーナリストが不確かな情報に決して深入りしないことも分かります(FFP関連の話題になるとThe Athletic の記者ですらいい加減なことを書いているケースがあります)。ジャーナリストの信憑性を評価する上で報道内容が実現した実現しなかった以外の評価軸をもつのはおススメです。

 

まとめ

Twitterやポッドキャストで信頼性の高い包括的な情報を速報で流すRomano氏は例えるならNHK。クラブ内部への取材に基づき速報と分析記事を発信するThe Athletic執筆陣は新聞と出版の両部門を抱える日経新聞社。マクロな視点からの情報発信に特長のあるBacobs氏はNewsweek、現場で得た情報をファン目線で届けるWatts氏は私設ファンクラブの会報誌取材班。選手サイドから得た情報を速報で流すWheatley氏は写真週刊誌の取材班、特ダネで世間の注目を集めたAFC Bellは週刊文春といったところでしょうか。

 

おまけ 

メディア・リテラシーを磨くうえで参考になるジャーナリストとして、Skysportドイツ のバイエルン番記者 (Tier 1) でアヤックス関係にも強いFlorian Plettenberg氏をおまけで取り上げてみたいと思います。今年はライスとティンバーの移籍話でよく話題にあがったので覚えておられる方も多いでしょう。

5月下旬にPlettenberg氏は "トゥヘルがライスと面会して好感触を得た",  "バイエルンがライス獲得に向けて動く見込み" と exclusive で報じました。その後、バイエルンからの具体的な動きはなく話が立ち消えになったのはご存じのとおりです。一方、ティンバーについては第一報こそOrnstein氏に譲りましたがその後はTier1らしい安定感で交渉の進展を報道していました。それではライスの件でPlettenbergは信用を落としたのでしょうか。

結論からいうとライス報道を真に受けて信憑性が落ちたと判断する人は報道の表面しか追っていない人といえるでしょう。移籍市場を理解できている人であれば、Romano氏が報じているバイエルン関係の情報(例えば、リュカ・エルナンデスの移籍報道)と結び付けてカーンとサリハミジッチを解任したバイエルン内部の混乱や、補強候補の選定におけるトゥヘルの発言力増大を読み取ることができます。ライス報道についてもPlettenberg氏の報道内容は間違っていないが、かといってライス獲得に動くかどうかは全く別の話と聞き流すことができたでしょう。ロンドンに訪ねてきたトゥヘルから起用法などを説明されたライスがその場ではバイエルン行きを断らないけれども、時間の経過とともに選手本人の希望が代理人を通じて伝わり、バイエルン内部でライス獲得のオファーをしない判断に至るという展開は普通にあり得ます。

報道内容が "結果的に実現した実現しなかった" でジャーナリストの評価やTierをコロコロ変えているようでは移籍市場は十分理解できません。取材先の状況や移籍市場全体の動向などとも結び付け、報道内容の行間を読むことができるかどうかが重要と言えるでしょう。