アーセナルの選手名鑑 :WG編

前回のNo.10/8編に続き今回は WG編です。それでは Here We Go !!

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7.WG

1)ブカヨ・サカ

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ヘイル・エンド出身のスターボーイ。エメリ2年目にカップ戦で左WGとして起用されると直ちに結果を出しました。アルテタ就任後はチーム事情により本職ではない左FBでの起用が続きましたが、ベストポジションを探るために左WGや左IHなどでも試され、最終的には右WGに行きつきました。それから約2年半が経ちましたが 今ではアーセナルどころかイングランド代表でも絶対的な主力として君臨しています。

そんなサカの特長はというと まずは人間性に触れなくてはいけません。EURO2020でPKキッカーを務めるも外してしまい、卑劣な人種差別の標的とされてしまいました。しかし、持ち前の前向きな性格と周囲のサポートで克服、さらにはピッチ上での活躍によりすべての批判を黙らせてしまいました。素直な性格で誰からも愛される一方、ピッチ上では攻撃の仕掛け人としての責務を全うします。相手が激しいファールを仕掛けてきても黙々と一対一を仕掛ける姿には感銘すら受けます。

サカの絶対的武器が何かと問われると解答に困りますが 欠点らしい欠点がないのが最大の長所といえるのかもしれません。エムバペやヴィニシウスのようなエレクトリックなスピード感はありませんが、相手に正対してドリブルを仕掛け、うまく逆を突いて非常に高い確率でクロスやシュートにつなげます。身体の使い方がすばらしく、相手を背負った状態でもボールをうまく隠したり、気が付いたらするりと回転して敵を置き去りにしています。逆足でのキックもうまく、ポケットでボールを受けて素早くターン、そこからニアハイに豪快に蹴り込むシュートはいまやシグネチャームーブの一つとすら言えます。右WGはもとより左FBから右WBまで様々なポジションを高レベルでこなせる点からもわかる通りインテリジェンスに優れた最高の pausa プレイヤーです。2シーズン連続で全試合出場を果たすなど故障にもつよく、ゴールもアシストも記録して・・・褒めだしたら止まりません (笑)。

弱点らしい弱点はありませんが、更なる成長に向けての課題としては、第一に、一流FBを相手とした場合のパフォーマンスの改善があげられます。アケやロバートソンのように簡単に釣られない選手を相手にすると少しおとなしくなってしまいます...あとゴール・アシストのスタッツがワールドクラスと呼ばれる選手たちと比べると少し劣ります。ここまで順調に成長を続けてきたサカですが、バロンドール・クラスの高みに到達できるだけの伸びしろを残しているかというと判断に迷います。マンU戦でペナ角から決めた理不尽な得点などが増えると、紛れもないワールドクラスと認められるようになるでしょう。

 

2)ガブリエル・マルティネッリ

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2019年夏にイトゥアーノから加入。家族の仕事の都合だったとはいえ、4部所属のクラブでこれだけのタレントがプレーしていたとは...恐るべしブラジル!

18歳になったタイミングでアーセナルと契約したガビですが、16歳の頃から整地すらされていないグラウンドで大人に混じってプレーしていただけあり、加入直後から直ちに結果を残しました。エメリ体制2年目のチームに不穏な空気が漂うなか、カップ戦を中心に得点を積み重ね、クロップからは “talent of the century” と最大限の賛辞を引き出します。アルテタ就任後もカンテをMatrixして決めた(単にカンテがスリップしただけ?) チェルシー戦の衝撃的ゴールなどでファンを魅了しました。中断期間に大怪我を負ってしまい、そのままシーズン終了となってしまったのは残念でしたが、終わってみればall-competition で10G4A。某緑木とともに将来を嘱望される若手アタッカーとして注目を集めました。

翌2020/21シーズンは故障から復帰しても散発的にしか出場機会を得られず少し伸び悩みます。しかし、2022/23シーズン中盤にキャプテンPEAのメンバー落ちとスミスロウの故障によりチャンスを掴むと攻守両面で躍動、再ブレイクを果たします。それ以来、左WGのファーストチョイスとして活躍、成長し続けています。

マルティネッリの特長として、まずはストイックなメンタリティを指摘する必要があるでしょう。練習でも常に100%を出し切るらしく、ティアニーが “これがビッグクラブの水準なのか“ と衝撃を受けたと語っていました。ボールに食らいつく姿勢や豊富な運動量により味方に活力を与えるチームの Go-To-Guy で、いわゆる主人公属性を持ち合わせています。マンチェスター・シティ戦とリバプール戦では相手のストロングポイントであるカンセロとアーノルドをねじ伏せるなど大舞台での強さがそうした印象に拍車をかけます。

昨シーズンは自己最多となる15Gを決めましたが得点力にも目を見張るものがあります。左右両足で強いシュートを放てる上、クロスに飛び込んでヘディングシュートを決めることもあります。天性のゴールセンスが感じられ将来はSTにコンバートされるかもしれません。

フットサル仕込みの足元のテクニックにも触れない訳にはいきません。縦に入ったボールを半身で受けて内側に運ぶ、ロングボールを収めて反転してDFをかわす、ドリブルで長い距離を持ち運び一気に陣地回復する、一対一の仕掛けで相手を抜き去るなど、さまざまな動きで保持並びにポジトラの局面で活躍します。右サイドのサカが相手に正対してドリブルを仕掛けるのに対し、ガビはより直線的な動きでスピードとテクニックを駆使して相手をかわしにかかります。クロップが評価することからも分かる通り、ガビの方がよりダイレクトでリバプール的な選手とも言えるでしょう。

2022/23シーズンはW杯あけに調子を少し落としましたが、トロサールのフィットやジェズスの復帰とともに調子を取り戻していきました。ジャカ退団により左サイドの陣容の変化が予想されますが、引き続きガビが左WGのファーストチョイスを務めることでしょう。新しい仲間との連携を深めたガビの姿を見られるのが今から待ち遠しくて仕方ありません。

 

3)リース・ネルソン

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ヘイル・エンド最高傑作と呼ばれることもあるフットボーラー。現在は左右のWGを務めますが攻撃的なポジションならどこでも対応できるボールスキルの持ち主です。コントロールやキャリー、ターンは精密機械のようなスムーズさを誇ります。

ベンゲル最終年の2017/18シーズンに若干17歳ながらプレミアリーグやE Lでデビュー。計8試合に先発起用されたことからも分かるとおり、若いときから将来を嘱望されていました。翌2018/19シーズンはホッフェンハイムで武者修行。シーズン7ゴールと結果は残しましたが、出場時間を思うように増やせないままアーセナルに復帰します。その後の2年間は出場機会をほとんど掴めず、2021/22シーズンにはフェイエノールトにローン移籍。片道切符の雰囲気が漂っており、アーセナルでネルソンの姿を2度と見られないだろうと覚悟したファンも大勢いました。

しかし、翌2022/23シーズン、以前とは違うネルソンの姿をファンは目にします。フェイエノールトでファン・ペルシの薫陶を受け、新たな人格リトル・ネルソンを身に宿したのでしょう。以前は自分のちからで試合を動かさんとする強い意志 decisiveness を感じにくい選手でした。ところが、昨シーズンのネルソンは途中交代で出場すると、周りの選手と連携して敵のローブロックをあの手この手で崩しにかかるようになりました。そうした姿勢が報われたのがあのボーンマス戦です。たった一振りでファンの心を鷲掴みにしてしまいました。

ネルソンは近日中に新契約にサインすると報じられています。WGの補強が長らく噂されてきましたが、アルテタらチーム首脳陣はネルソンの成長に賭けた訳です。来季はスーパーサブとしてだけでなく、サカやガビとのポジション争いにも加わってもらいたいところです。それには、何よりも故障癖の克服、これが大切です。出場機会がめぐってくる度に小さな故障でチャンスを逃すのは何とかしてください💢。もう1つ、汎用性の高い武器も身につけて欲しいですね。相手のローブロックを崩すための仕掛けは良かったですが、サカ&ガビと伍していくにはネルソンならでは強みが必要です。

 

4)レアンドロ・トロサール

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2023年冬の移籍市場ではミヒャエル・ムドリクとジョアン・フェリックスの2人の獲得が噂されました。前者についてはシャフタール・ドネツクと膝を詰めて交渉まで行いましたが、結局、両名ともチェルシーに移籍しました。そうした嫌な流れを受けてアーセナルが獲得したのがトロサールです。優勝争いに踏みとどまるための経験豊富かつポリバレントな選手の補強であり、ムドリクというよりフェリックスのプランBと言えるでしょう。

前所属のブライトンでデゼルビと衝突したと報じられたため規律面が不安視されましたが、そんな様子はおくびにも出さず、加入直後から期待通りの働きを見せてくれました。ジェズス不在の穴を埋めるべくSTとして先発する試合もあれば、左右のWGとして出場したり試合中に左IHに移ることも。900分強の出場時間ながら1G10A。素晴らしいの一言です。足元の技術に秀でており重心移動やターンがスムーズ。狭いスペースでパスを受けても簡単にボールを失いません。その右足は精度・威力ともに抜群でセットプレーのキッカーも務めました。シーズン前半にアンフィールドで左足だけでハットトリックしたように、逆足でも強くボールを蹴ることができます。

他方、PnP(ペース&パワー)において特筆すべきものがなく、大外から個のちからで仕掛けるような場面ではガビ&ジェズスに対して見劣りします。攻め急ぐ性向が少し気になりましたが、ハーフスペースを中心に味方とポジションを循環させつつ攻撃を流動化させる役割が一番向いているように感じました。来季はジャカが退団すると予想される一方でハヴァーツが加わり、攻撃陣の序列もおそらく変化します。ビッグタイトル獲得に向け、誰が出場しても質の落ちないチーム作りが求められる中、アルテタがトロサールをどのように起用していくかは興味深いです。

 

5)二コラ・ペペ

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クラブ史上最高額となる72Mポンドの移籍金でリールから加入したWG。エメリの第一希望はザハでしたが気づいたらアーセナルに加入していました。選手の実績や他クラブとの競合状況を踏まえると移籍金が高すぎたと批判されるのもやむを得ません。ラウール・サンジェイFDの元同僚が経営危機に直面していたリールで要職に就いていた関係で黒い噂がつきまとってしまったのは、選手とは無関係なだけに少し気の毒です。

選手としての最大の特長はゴール前でのG/A。身体をひねった独特のフォームから蹴りだす左足シュートは破壊力抜群。ゴール前ではフィジカルを活かした強引な突破でチャンスをクリエイトすることもできます。

一方、課題として真っ先に上がるのはボールロストの多さです。当初はドリブラーとして期待されていましたが、正対した状態から強引に抜き去ることもありましたが、成功率は決して高いとは言えません。コントロールやキャリーの時点で足元からボールが離れることが多く、簡単にボールを奪われて相手のカウンターの起点にもなりがちでした。アルテタは不用意なボールロストを何よりも嫌うため、アーセナルで出場機会を掴むには致命的な欠点だったと言わざるを得ません。守備においてもポジショニングセンスが悪く、ハードワークしている感じもしませんでした。

2022/23シーズンはチーム内で居場所を失いサラリーカットの末にニースに期限付きで移籍しました。しかし、多くのクラブから完全移籍のオファーが来るような大活躍とはいかず、2023/24シーズンは契約破棄からのフリー移籍もありうるのではと噂されています。素晴らしい武器も持っているだけにその能力を発揮できる環境が見つかるとよいのですが...