アーセナルの選手名鑑 :No.10/8編

前回のNo.8/6編に続き今回は No.10/8編です。それでは Here We Go !!

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6.No.10/8

1)マーティン・ウーデゴール

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2021年冬に半年間の期限付きでアーセナルに加入、同年夏に完全移籍を果たしました。神童と称され、2015年に若干16歳でレアル・マドリードに加入しましたが、そのキャリアは順風満帆とは程遠いもの。計4クラブでの5シーズンに及ぶローン生活を経てようやくノースロンドンに home を見つけました。

ローン生活が長かったとはいえ、結果を残していなかった訳ではありません。エールディビジ3年目となる2018/19シーズンにはフィテッセに所属し、リーグ5位のチーム成績ながら公式ベストXIに選出されました。前年度にチェルシーから期限付きで移籍して大活躍したメイソン・マウントの後釜として加入しましたが、Bluesの貴公子もリーグ中位の成績ながらベストXIに選出されており スタッツも8G10Aと9G8Aでほぼ同じ。不思議な縁を感じます。

翌2019/20シーズンはレアル・ソシエダにローン移籍。そこでメディアが選出するベストXIに名を連ねるほどの活躍をみせ、シーズン終了後には白い巨人への復帰チケットをつかみ取ります。しかし、2020/21シーズン前半は世界最高峰の選手が揃うチームにおいて説得力のあるパフォーマンスを示すことができず、遂には監督のジダンとも仲違い。出場機会を求めて半ば強引にレアル・マドリードを飛び出してアーセナルにローン移籍しました。

アーセナルでは加入直後からトップ下として起用され即座に適応。ベストパフォーマンスとも呼べるウェストハム戦(2021年3月)では、ミスを連発して3点差を付けられたチームを独りで引きあげ、勝ち点1の奪取に貢献しました。ゴールもアシストも記録しませんでしたが、全得点はウーデゴールを起点としたもので再現性のある攻撃パターンが窺えました。試合後、イアン・ライトが ”Arteta must be on the sideline thinking, 'Oh my god, this is what I need, this is the guy.' " とコメントしていたのが印象に残っています。アルテタが自分にとってのダビド・シルバを見つけた瞬間だったと言っても過言ではないでしょう。

その後、故障離脱やEL準決勝での敗退の戦犯にされたりと浮き沈みがあり、ファンの間ではウーデゴールの完全移籍を望む声はそこまで大きくありませんでした。実際、情弱ホイホイAFCベルがマディソンと交渉中と報じるや否やファンの視線は一斉にそちらを向きました。1st Tierのオースティンやロマーノが一貫してウーデゴールがプライオリティ、アーセナルは待って待ってチャンスを伺うと報じつづけていたことを考えると何とも不思議な光景でした。自身の将来が取りざたされる度にdevelopment & stability が何より重要と訴え続けてきた苦労人が、アーセナルへの完全移籍を果たし home を見つけたと喜んでいる姿をみると涙腺が少し緩んでしまいます。

昨シーズンはキャプテンを任されるまでに成長したノルウェー人の特長ですが...数えだしたら切りがありません (笑)。敢えてあげるなら次の5つでしょうか。

1.リーダーシップと落ち着き
2.パスのヴィジョンと精度
3.Pausa マスター 
4.得点センス
5.クレバーかつインテンシティの高い守備

今シーズンからキャプテンを務めていますが、声を大にしてチームを鼓舞するというよりもプロとしての模範的な振る舞いにより味方を引っ張る leading by example といえるでしょう。フィテッセ時代の恩師スルツキーが語るようにロボットになぞらえられるようなストイックさがあります。インタビューでの受け答えも常に100点満点。人間的に ultra-mature でキャプテンの重圧も自身の成長にうまく転嫁させました。ちなみに下の動画は自分が今までに見たなかで一番好きなインタビューです (笑)。

 

プレーに目を向けるとやはりパスには特別なタレントを感じます。映像をとおして俯瞰的にみている視聴者にすら予測できないコースに、受け手に対して”次に何をすべきか” のメッセージを込めたパスを抜群のウェイトとタイミングで通したりします。敵が密集している場合にはロブパスで相手の頭上を抜くことも...ブロックをこじ開けるための引き出しも多いチームの司令塔。その上、攻めにいく場面とゲームを落ち着かせる場面をよく理解している最高の Pausa プレイヤーの1人です。コントロールやターン、パス精度の高さを活かし、ボールを安全かつスムーズに循環させることができます。

加えて、昨シーズンは得点が大幅に増加。左サイドからのロークロスに走り込むタイミングに磨きがかかっただけでなく、そこで自信を得たのか、ゴール前で落ち着いて相手をかわす余裕を見せたり、シーズン終盤にはペナルティエリア外からのミドルシュートでもゴールを奪うようになりました。アーセナル加入直後はシュート意識が低いと批判されたりもしましたが、それも今や昔のはなし。フィテッセ時代も半分以上がエリア外からの得点だったので、技術があがったというより、チームの構造が整理されたことでシュートを打つタイミング、さらには自信を取り戻したといった方が正しいのでしょう。

我らがキャプテンは守備でも見せます。決して1対1を制するためのパワーや瞬発力に秀でているわけではありません。しかし、クレバーなプレッシング、粘り強いチェイシング、味方の1on1にタイミングよく割り込んでボールを掻っさらう動きなどに秀でています。チームの組織的な守備における貢献度は絶大です。

さらなる成長のための改善点をあげるとするなら、第一に、ピッチコンディションが悪かったり相手のプレスが強烈な場合のパフォーマンスをもう少しあげてほしいですね。上述のとおり ultra-mature なキャラクターですが自信の低下とパフォーマンスが連動する少しナイーブな側面があり、精密機械がたまに誤作動を起こすような状態になります。プレス耐性がもうワンランク上がるとよいのかもしれません。もう1つはアシストを増やしてほしいです。デブライネやB.フェルナンデスと比較するとその部分では少し見劣りします。チーム戦術とポジションによる部分が大きいですが、カウンターからのスルーやカットバックといったゴールに直結しやすいパスが少なく、その結果としてアシストが伸びにくいように思えます。あれだけのパスセンスを誇るだけに、あと少しアシストが増えれば、プレミア最高のプレイメーカーと呼ばれる日も遠くないでしょう。

 

2)エミール・スミス=ロウ

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ファンの期待をサカとともに背負うヘイル・エンド出身の背番号10。2018年夏のプレシーズンツアーでアトレティコ・マドリード相手にファインゴールを決めたのがファンから大きな注目を集めるようになったきっかけだったでしょうか?

その後、2018/19シーズンと2019/20シーズンにライプツィヒとハダースフィールドにそれぞれ半年間のローン移籍。前者では故障もあり試合経験を積めませんでしたが、ライプツィヒが獲得に動くと報じられたように一定の評価をされていたようです。後者では、移籍する際にアルテタから「君のプレーは見ないが周りの人間の評価を見る、人間的に成長してこい」と発破をかけられて送り出されたそうです。降格争いを繰り広げるチームでコンスタントに試合出場し、成長することができました。

翌2020/21シーズンはアーセナルに復帰しますが序盤は故障で出遅れ。大きなきっかけとなったのは記憶に新しいボクシングデイのチェルシー戦。それまでNo.10不在で絶望的なほどの得点力・クリエイティビティ不足に陥っていたチームを一気に復調させるカタリストとなりました。以来、2021/22シーズン前半のマンチェスター・ユナイテッド戦で途中退場するまでコンスタントに活躍、復帰後もリードして迎えた試合終盤に投入されカウンターから得点を決めるなどスーパーサブ的な活躍を果たします。しかし、そこから徐々に出場機会を減らしていき、2022/23シーズンは開幕直後に長らく苦しんでいたグロイン・ペイン完治のために手術を受けて長期離脱。シーズン中盤に復帰するも好調のチームにうまく入り込めず出場機会を全く得られずシーズンを終えました。

選手としての特長をあげると、1) ドリブルによる縦への推進力、2) 左右両足からの強力かつ正確、相手GKのタイミングをずらす間合いのシュート、3) 相手に囲まれても簡単にボールを失わないキープ力、4) 味方のためのスペースや攻撃のスイッチを入れるオフザボールのラン、といったところでしょうか。反転ターンからの縦への突進はシグネチャームーブともいえ、エジルのような爽快感があります。

課題は pausaプレーと守備強度でしょう。アルテタ・ボールはゲームのコントロールに重きを置くため、pausaプレイヤーを複数起用する必要があります。ロウは攻撃のスイッチを入れるプレーは得意ですが、ボールをゆっくり回しながら崩しどころを探るような際に空気になりがちです。Pausaプレーに十分適応できない時点で、ウーデゴールやジャカに対して大きく見劣りしてしまいます。同じことは守備強度についても言え、ポジショニングを守ろうとする意識は感じられますが、ガビやウーデゴールがチームに活を入れるかのようなインテンシティを示すのと比較すると存在感があまりに希薄です。

チームが絶不調のときに颯爽と登場したり、古き良きアーセナルを感じさせるプレイスタイルからファンの間での人気がきわめて高い選手です。しかし、故障が多く順調なキャリアを送っているとはいえません。そのため、他サポからはウィルシャーの再来と揶揄されることも...ベスト・ポジションがはっきりしない点でジャックに通じる部分もあります。しかし、ようやく故障が完治しました。ここから再び成長軌道へと戻ってくることを期待したいです。ただし、現在の厳しい競争環境においては試合出場機会を得られるかどうかも本人次第です。来季の前半戦次第では試合経験を積むためにローン移籍に出される可能性もゼロではありません。ファンの期待を裏切らないためにも兎に角、結果を出してほしいです。

 

3)ファビオ・ヴィエイラ

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2022年6月に突如加入しました。所属していたポルトがUEFA-FFP違反でCL/EL出場権をはく奪される目前だったため、代理人のホルゲ・メンデスが売り込んできたと推察されます。

ポルト時代は2022年1月にルイス・ディアスがリバプールに移籍したことで出場機会を増やし20GA、90分換算で1.15GAという素晴らしいスタッツを残します。アーセナルは同年夏の移籍市場にて当初はティーレマンス獲得に動くと予想されていましたが、結果的にヴィエイラがベルギー人に代わって加入。アルテタは常々チームをワンランク上に引きあげる補強の必要性を唱えており、2021/22シーズンにCL出場権を逃す大きな原因となった得点力不足の改善のため ヴィエイラ獲得に踏み切ったものと思われます。

ヴィエイラの最大の長所は魔法のような左足からのクロスやシュートです。右のハーフスペースからDFラインの裏側にやわらかいクロスを放り込んでアシストしたり、力の抜けた状態からワンステップで鋭いシュートを放つことができます。

シーズン序盤は主にELで起用され、シーズン後半はジャカとの途中交代で左IHのポジションに入るなど散発的ながら出場機会を増やしていきました。90分換算でのゴールやアシストのスタッツは悪くありません。しかし、ビルドアップでの貢献や敵陣でのボール循環においてうまくチームに入り込めない試合が目立ちました。体の線が細くジャカと比べると守備面での貢献の低さも歴然。攻撃面でのベストポジションはおそらくウーデゴールが君臨する右IHですが、アルテタは相手の固いブロックを崩すために左サイドからデブライネやアーノルドのような鋭いクロスを順足で上げてほしいのかもしれません。

2023/24シーズンはハヴァーツが加わり、スミスロウも復活を期すなど厳しい競争が予想されます。シーズン前半戦で結果を残せないと冬の移籍市場では試合経験を積むためにローン移籍する可能性もなきにしもあらず。正念場とも言える状況なので自らの存在価値をアピールしてほしいですね。