アーセナルの選手名鑑 :ST編

とうとう最後になりました。前回のWG編の次はST編です。いつもはスタメンクラスから紹介しますが今回は順番を逆にします。それでは Here We Go !!

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8.ST

1)フロラン・バロガン

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ヘイル・エンド出身のストライカー。若い時から将来を嘱望されてきた選手です。2021年夏にフリーで退団する可能性がありましたが契約延長にサイン。2021/22シーズンの開幕ブレントフォード戦ではオーバメヤン&ラカゼットの両エースが欠場となりいきなり先発。それ以降、プレミアリーグでの出場機会はなく、同シーズン後半はミドルスブラ、翌2022/23シーズンはスタッドランスへとそれぞれ期限付きで移籍します。後者では若干20歳ながら欧州5大リーグで21歳以下の選手として最多21得点をあげる大活躍。期待の若手からトップリーグでエースストライカーを張るべき選手へと一気にステップアップしました👏。

選手としての特徴はというと正直よく知りません💦。ユース時代のハイライト動画を見たことがありますが、その年代では規格外すぎて相手をなめているかのようなプレーが多かった印象です。スタッドランスでの得点シーンも見ましたが相手ラインとの駆け引きやライン裏への走り込むスピード、シュートシーンでの落ち着きに秀でているように見えましたが...フォローしていた方からするとどのように見えるのでしょうか?

本人は自身の成長のためファーストチョイスとなる環境を求めており、加えて、再度のローン移籍を拒む姿勢も明確にしています。前者については向上心のあらわれとして理解できますし、後者についてもローン移籍ならではの苦労があるので致し方ないのかもしれません。ただし、ハリー・ケインは3シーズン、ウーデゴールに至っては5シーズンもローン移籍を経験しているので、できればもう1シーズンどこかで武者修行して2024/25シーズンにアーセナルでポジション争いに加わって欲しい気持ちもあるのですが...今夏はSTを求めるビッグクラブが多いものの、市場に出ている優秀なSTが不足しています。うまいことバロガンにとって良い環境を見つけてほしいものです。

 

2)エディ・エンケティア

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ヘイル・エンド出身のST。2017/18シーズンにカラバオ杯で途中出場してわずか数分のうちに同点弾と決勝弾を決めて注目を集めました。かつてはイングランドU21代表のキャプテンも務め、アラン・シアラーが持っていた世代別代表の最多得点記録を更新しました。

契約満了による国内外のクラブへのフリー移籍が濃厚だったエディが契約延長にサインしたのは1年前のことです。ゴール欠乏症に陥ったラカゼットを押し除けてチャンスをつかむと重要な試合でゴールを連発。アーセナルから好条件の延長オファーを引き出して新たに年契約を結びました。

そこに至るまでの道のりは平坦なものではありませんでした。2019年1月にはサインを残すのみだったアウグスブルグへの完全移籍をエメリにブロックされました。出場機会を約束されたものの結局、5試合に途中交代しただけ...2019/20シーズンは当時チャンピオンシップにいたリーズに1年間の期限付きで移籍しましたがバンフォードの壁を破れず半年でアーセナルに戻ることに...復帰後はアルテタから評価されてチャンスを得ましたが周囲を納得させる結果を残せず、その後の2年弱をカップ戦もしくは散発的な途中出場でしか試合に出られないというフラストレーションの溜まる形で過ごします。

しかし、エディはその間も腐らずに成長を続けていました。AoNで出場機会の少なさに不満を洩らすロコンガをエディが嗜めていたシーンを覚えている方も多いでしょう。ラカゼットに代わって起用されるや否や、ゴールを決めるだけでなく、ライン間に下りてきてのリンクプレーや反転してからの持ち上がりなどアルテタがSTに期待するプレーを見事に遂行してみせました。その結果が冒頭で述べた契約延長と背番号14というわけです。

昨シーズンは新加入のジェズスが即座にフィットしたこともあり、なかなか出番を得られませんでした。しかし、ジェズスが離脱して出場機会を得るとチームを優勝争いに留まらせるためのゴールをいくつも決め、自身の存在価値を証明してみせました。

2023/24シーズンも引き続き2nd-STとして起用される見込みですが、ジェズスからポジションを奪い取る意気込みを見せて欲しいです。そのためには少なくとも次の2つの課題を克服する必要があるでしょう。第一に決定力の回復です。昨シーズンは "xG - 得点" という決定力に関わるスタッツがリーグ最低レベルでした。チャンスに顔を出しているという好意的な評価も出来ますがやはりSTなので決定力は必要でしょう。第二に途中出場した時のパフォーマンスの改善です。先発時はコンスタントに結果を残せていますが、途中出場時は長らく得点を決めていません。チームのためにも自身をアピールするためにも途中出場から貴重な同点弾や決勝弾を決められる選手へと成長して欲しいです。

 

3)ガブリエル・ジェズス

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マンチェスター・シティから移籍金45Mポンドで加入した万能ストライカー。シティ加入直後はアグエロと1top のポジションを争っていましたが、得点が物足りないこともあり、気づいたら右WGでの出場機会が増えていました。そんな状況を逆手に取り、アーセナルはポスト・オバラカのエース・ストライカーとして獲得に乗り出しました。土壇場でハイジャックを仕掛けてきた青いチームがいたそうですが見事一本釣りに成功。1年以上におよぶST獲得ドラマに幕を下ろしました。ヴラホビッチ、イサク、J.デイビッド、DCL、エイブラハム...今では懐かしい面々です (笑)。

そんなジェズスの一年目ですが、シーズン序盤は重要なゴールを決めるは前線に流動性をもたらすはで八面六臂の大活躍。その後、得点を決められなくなりW杯で負傷して長期離脱。故障が癒えるとスムーズに復帰しましたが、離脱期間中にトロサールやエンケティアが活躍したこともあり、優勝争いをするチームにおいて絶対的なエースと呼べるほどの活躍にまでは至りませんでした。

選手としての特長に目を向けると...とにかく巧いですね。コントロールにターン、ドリブル、ステップ、運動量、フィジカル、重心の低さ、一対一の能力など隙がほとんどありません。相手を背負った状態でのポストプレー、反転して相手をかわすドリブル、狭いエリアでのボールキープ、自陣に戻ってのボール奪取...南米の選手によくみられるケツを張り出した独特のフォームも可愛らしいです。STとして獲得しましたがWGでもSBでもはっきり言ってどこのポジションでもできそうです。一方、欠点はというと...やはり得点の少なさを指摘せざるを得ません。ゴール前でボールを強く正確に蹴るスキルがSTとして物足りなく感じます。ドリブルで切り込んだシーンなどシュートに行くまでに頑張りすぎて体勢が崩れているシーンも目につきます。やはりペップは間違っていなかった?

CL優勝を目指すうえで現在のアーセナルに一番不足している要素というと、何もないところからチャンスを作り出すエムバペやヴィニシウスのような絶対的な個のちからが真っ先に思い浮かびます。ワンランク上のチームを目指すため、来夏以降になるとは思いますが、前線に強力な選手を加える可能性があります。エースSTのポジションを死守するためにも今シーズンのジェズスにはゴールをしっかり決めて、自身の存在意義をアピールしてほしいですね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アーセナルの選手名鑑 :WG編

前回のNo.10/8編に続き今回は WG編です。それでは Here We Go !!

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7.WG

1)ブカヨ・サカ

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ヘイル・エンド出身のスターボーイ。エメリ2年目にカップ戦で左WGとして起用されると直ちに結果を出しました。アルテタ就任後はチーム事情により本職ではない左FBでの起用が続きましたが、ベストポジションを探るために左WGや左IHなどでも試され、最終的には右WGに行きつきました。それから約2年半が経ちましたが 今ではアーセナルどころかイングランド代表でも絶対的な主力として君臨しています。

そんなサカの特長はというと まずは人間性に触れなくてはいけません。EURO2020でPKキッカーを務めるも外してしまい、卑劣な人種差別の標的とされてしまいました。しかし、持ち前の前向きな性格と周囲のサポートで克服、さらにはピッチ上での活躍によりすべての批判を黙らせてしまいました。素直な性格で誰からも愛される一方、ピッチ上では攻撃の仕掛け人としての責務を全うします。相手が激しいファールを仕掛けてきても黙々と一対一を仕掛ける姿には感銘すら受けます。

サカの絶対的武器が何かと問われると解答に困りますが 欠点らしい欠点がないのが最大の長所といえるのかもしれません。エムバペやヴィニシウスのようなエレクトリックなスピード感はありませんが、相手に正対してドリブルを仕掛け、うまく逆を突いて非常に高い確率でクロスやシュートにつなげます。身体の使い方がすばらしく、相手を背負った状態でもボールをうまく隠したり、気が付いたらするりと回転して敵を置き去りにしています。逆足でのキックもうまく、ポケットでボールを受けて素早くターン、そこからニアハイに豪快に蹴り込むシュートはいまやシグネチャームーブの一つとすら言えます。右WGはもとより左FBから右WBまで様々なポジションを高レベルでこなせる点からもわかる通りインテリジェンスに優れた最高の pausa プレイヤーです。2シーズン連続で全試合出場を果たすなど故障にもつよく、ゴールもアシストも記録して・・・褒めだしたら止まりません (笑)。

弱点らしい弱点はありませんが、更なる成長に向けての課題としては、第一に、一流FBを相手とした場合のパフォーマンスの改善があげられます。アケやロバートソンのように簡単に釣られない選手を相手にすると少しおとなしくなってしまいます...あとゴール・アシストのスタッツがワールドクラスと呼ばれる選手たちと比べると少し劣ります。ここまで順調に成長を続けてきたサカですが、バロンドール・クラスの高みに到達できるだけの伸びしろを残しているかというと判断に迷います。マンU戦でペナ角から決めた理不尽な得点などが増えると、紛れもないワールドクラスと認められるようになるでしょう。

 

2)ガブリエル・マルティネッリ

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2019年夏にイトゥアーノから加入。家族の仕事の都合だったとはいえ、4部所属のクラブでこれだけのタレントがプレーしていたとは...恐るべしブラジル!

18歳になったタイミングでアーセナルと契約したガビですが、16歳の頃から整地すらされていないグラウンドで大人に混じってプレーしていただけあり、加入直後から直ちに結果を残しました。エメリ体制2年目のチームに不穏な空気が漂うなか、カップ戦を中心に得点を積み重ね、クロップからは “talent of the century” と最大限の賛辞を引き出します。アルテタ就任後もカンテをMatrixして決めた(単にカンテがスリップしただけ?) チェルシー戦の衝撃的ゴールなどでファンを魅了しました。中断期間に大怪我を負ってしまい、そのままシーズン終了となってしまったのは残念でしたが、終わってみればall-competition で10G4A。某緑木とともに将来を嘱望される若手アタッカーとして注目を集めました。

翌2020/21シーズンは故障から復帰しても散発的にしか出場機会を得られず少し伸び悩みます。しかし、2022/23シーズン中盤にキャプテンPEAのメンバー落ちとスミスロウの故障によりチャンスを掴むと攻守両面で躍動、再ブレイクを果たします。それ以来、左WGのファーストチョイスとして活躍、成長し続けています。

マルティネッリの特長として、まずはストイックなメンタリティを指摘する必要があるでしょう。練習でも常に100%を出し切るらしく、ティアニーが “これがビッグクラブの水準なのか“ と衝撃を受けたと語っていました。ボールに食らいつく姿勢や豊富な運動量により味方に活力を与えるチームの Go-To-Guy で、いわゆる主人公属性を持ち合わせています。マンチェスター・シティ戦とリバプール戦では相手のストロングポイントであるカンセロとアーノルドをねじ伏せるなど大舞台での強さがそうした印象に拍車をかけます。

昨シーズンは自己最多となる15Gを決めましたが得点力にも目を見張るものがあります。左右両足で強いシュートを放てる上、クロスに飛び込んでヘディングシュートを決めることもあります。天性のゴールセンスが感じられ将来はSTにコンバートされるかもしれません。

フットサル仕込みの足元のテクニックにも触れない訳にはいきません。縦に入ったボールを半身で受けて内側に運ぶ、ロングボールを収めて反転してDFをかわす、ドリブルで長い距離を持ち運び一気に陣地回復する、一対一の仕掛けで相手を抜き去るなど、さまざまな動きで保持並びにポジトラの局面で活躍します。右サイドのサカが相手に正対してドリブルを仕掛けるのに対し、ガビはより直線的な動きでスピードとテクニックを駆使して相手をかわしにかかります。クロップが評価することからも分かる通り、ガビの方がよりダイレクトでリバプール的な選手とも言えるでしょう。

2022/23シーズンはW杯あけに調子を少し落としましたが、トロサールのフィットやジェズスの復帰とともに調子を取り戻していきました。ジャカ退団により左サイドの陣容の変化が予想されますが、引き続きガビが左WGのファーストチョイスを務めることでしょう。新しい仲間との連携を深めたガビの姿を見られるのが今から待ち遠しくて仕方ありません。

 

3)リース・ネルソン

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ヘイル・エンド最高傑作と呼ばれることもあるフットボーラー。現在は左右のWGを務めますが攻撃的なポジションならどこでも対応できるボールスキルの持ち主です。コントロールやキャリー、ターンは精密機械のようなスムーズさを誇ります。

ベンゲル最終年の2017/18シーズンに若干17歳ながらプレミアリーグやE Lでデビュー。計8試合に先発起用されたことからも分かるとおり、若いときから将来を嘱望されていました。翌2018/19シーズンはホッフェンハイムで武者修行。シーズン7ゴールと結果は残しましたが、出場時間を思うように増やせないままアーセナルに復帰します。その後の2年間は出場機会をほとんど掴めず、2021/22シーズンにはフェイエノールトにローン移籍。片道切符の雰囲気が漂っており、アーセナルでネルソンの姿を2度と見られないだろうと覚悟したファンも大勢いました。

しかし、翌2022/23シーズン、以前とは違うネルソンの姿をファンは目にします。フェイエノールトでファン・ペルシの薫陶を受け、新たな人格リトル・ネルソンを身に宿したのでしょう。以前は自分のちからで試合を動かさんとする強い意志 decisiveness を感じにくい選手でした。ところが、昨シーズンのネルソンは途中交代で出場すると、周りの選手と連携して敵のローブロックをあの手この手で崩しにかかるようになりました。そうした姿勢が報われたのがあのボーンマス戦です。たった一振りでファンの心を鷲掴みにしてしまいました。

ネルソンは近日中に新契約にサインすると報じられています。WGの補強が長らく噂されてきましたが、アルテタらチーム首脳陣はネルソンの成長に賭けた訳です。来季はスーパーサブとしてだけでなく、サカやガビとのポジション争いにも加わってもらいたいところです。それには、何よりも故障癖の克服、これが大切です。出場機会がめぐってくる度に小さな故障でチャンスを逃すのは何とかしてください💢。もう1つ、汎用性の高い武器も身につけて欲しいですね。相手のローブロックを崩すための仕掛けは良かったですが、サカ&ガビと伍していくにはネルソンならでは強みが必要です。

 

4)レアンドロ・トロサール

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2023年冬の移籍市場ではミヒャエル・ムドリクとジョアン・フェリックスの2人の獲得が噂されました。前者についてはシャフタール・ドネツクと膝を詰めて交渉まで行いましたが、結局、両名ともチェルシーに移籍しました。そうした嫌な流れを受けてアーセナルが獲得したのがトロサールです。優勝争いに踏みとどまるための経験豊富かつポリバレントな選手の補強であり、ムドリクというよりフェリックスのプランBと言えるでしょう。

前所属のブライトンでデゼルビと衝突したと報じられたため規律面が不安視されましたが、そんな様子はおくびにも出さず、加入直後から期待通りの働きを見せてくれました。ジェズス不在の穴を埋めるべくSTとして先発する試合もあれば、左右のWGとして出場したり試合中に左IHに移ることも。900分強の出場時間ながら1G10A。素晴らしいの一言です。足元の技術に秀でており重心移動やターンがスムーズ。狭いスペースでパスを受けても簡単にボールを失いません。その右足は精度・威力ともに抜群でセットプレーのキッカーも務めました。シーズン前半にアンフィールドで左足だけでハットトリックしたように、逆足でも強くボールを蹴ることができます。

他方、PnP(ペース&パワー)において特筆すべきものがなく、大外から個のちからで仕掛けるような場面ではガビ&ジェズスに対して見劣りします。攻め急ぐ性向が少し気になりましたが、ハーフスペースを中心に味方とポジションを循環させつつ攻撃を流動化させる役割が一番向いているように感じました。来季はジャカが退団すると予想される一方でハヴァーツが加わり、攻撃陣の序列もおそらく変化します。ビッグタイトル獲得に向け、誰が出場しても質の落ちないチーム作りが求められる中、アルテタがトロサールをどのように起用していくかは興味深いです。

 

5)二コラ・ペペ

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クラブ史上最高額となる72Mポンドの移籍金でリールから加入したWG。エメリの第一希望はザハでしたが気づいたらアーセナルに加入していました。選手の実績や他クラブとの競合状況を踏まえると移籍金が高すぎたと批判されるのもやむを得ません。ラウール・サンジェイFDの元同僚が経営危機に直面していたリールで要職に就いていた関係で黒い噂がつきまとってしまったのは、選手とは無関係なだけに少し気の毒です。

選手としての最大の特長はゴール前でのG/A。身体をひねった独特のフォームから蹴りだす左足シュートは破壊力抜群。ゴール前ではフィジカルを活かした強引な突破でチャンスをクリエイトすることもできます。

一方、課題として真っ先に上がるのはボールロストの多さです。当初はドリブラーとして期待されていましたが、正対した状態から強引に抜き去ることもありましたが、成功率は決して高いとは言えません。コントロールやキャリーの時点で足元からボールが離れることが多く、簡単にボールを奪われて相手のカウンターの起点にもなりがちでした。アルテタは不用意なボールロストを何よりも嫌うため、アーセナルで出場機会を掴むには致命的な欠点だったと言わざるを得ません。守備においてもポジショニングセンスが悪く、ハードワークしている感じもしませんでした。

2022/23シーズンはチーム内で居場所を失いサラリーカットの末にニースに期限付きで移籍しました。しかし、多くのクラブから完全移籍のオファーが来るような大活躍とはいかず、2023/24シーズンは契約破棄からのフリー移籍もありうるのではと噂されています。素晴らしい武器も持っているだけにその能力を発揮できる環境が見つかるとよいのですが...

 

 

 

 

 

 

アーセナルの選手名鑑 :No.10/8編

前回のNo.8/6編に続き今回は No.10/8編です。それでは Here We Go !!

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6.No.10/8

1)マーティン・ウーデゴール

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2021年冬に半年間の期限付きでアーセナルに加入、同年夏に完全移籍を果たしました。神童と称され、2015年に若干16歳でレアル・マドリードに加入しましたが、そのキャリアは順風満帆とは程遠いもの。計4クラブでの5シーズンに及ぶローン生活を経てようやくノースロンドンに home を見つけました。

ローン生活が長かったとはいえ、結果を残していなかった訳ではありません。エールディビジ3年目となる2018/19シーズンにはフィテッセに所属し、リーグ5位のチーム成績ながら公式ベストXIに選出されました。前年度にチェルシーから期限付きで移籍して大活躍したメイソン・マウントの後釜として加入しましたが、Bluesの貴公子もリーグ中位の成績ながらベストXIに選出されており スタッツも8G10Aと9G8Aでほぼ同じ。不思議な縁を感じます。

翌2019/20シーズンはレアル・ソシエダにローン移籍。そこでメディアが選出するベストXIに名を連ねるほどの活躍をみせ、シーズン終了後には白い巨人への復帰チケットをつかみ取ります。しかし、2020/21シーズン前半は世界最高峰の選手が揃うチームにおいて説得力のあるパフォーマンスを示すことができず、遂には監督のジダンとも仲違い。出場機会を求めて半ば強引にレアル・マドリードを飛び出してアーセナルにローン移籍しました。

アーセナルでは加入直後からトップ下として起用され即座に適応。ベストパフォーマンスとも呼べるウェストハム戦(2021年3月)では、ミスを連発して3点差を付けられたチームを独りで引きあげ、勝ち点1の奪取に貢献しました。ゴールもアシストも記録しませんでしたが、全得点はウーデゴールを起点としたもので再現性のある攻撃パターンが窺えました。試合後、イアン・ライトが ”Arteta must be on the sideline thinking, 'Oh my god, this is what I need, this is the guy.' " とコメントしていたのが印象に残っています。アルテタが自分にとってのダビド・シルバを見つけた瞬間だったと言っても過言ではないでしょう。

その後、故障離脱やEL準決勝での敗退の戦犯にされたりと浮き沈みがあり、ファンの間ではウーデゴールの完全移籍を望む声はそこまで大きくありませんでした。実際、情弱ホイホイAFCベルがマディソンと交渉中と報じるや否やファンの視線は一斉にそちらを向きました。1st Tierのオースティンやロマーノが一貫してウーデゴールがプライオリティ、アーセナルは待って待ってチャンスを伺うと報じつづけていたことを考えると何とも不思議な光景でした。自身の将来が取りざたされる度にdevelopment & stability が何より重要と訴え続けてきた苦労人が、アーセナルへの完全移籍を果たし home を見つけたと喜んでいる姿をみると涙腺が少し緩んでしまいます。

昨シーズンはキャプテンを任されるまでに成長したノルウェー人の特長ですが...数えだしたら切りがありません (笑)。敢えてあげるなら次の5つでしょうか。

1.リーダーシップと落ち着き
2.パスのヴィジョンと精度
3.Pausa マスター 
4.得点センス
5.クレバーかつインテンシティの高い守備

今シーズンからキャプテンを務めていますが、声を大にしてチームを鼓舞するというよりもプロとしての模範的な振る舞いにより味方を引っ張る leading by example といえるでしょう。フィテッセ時代の恩師スルツキーが語るようにロボットになぞらえられるようなストイックさがあります。インタビューでの受け答えも常に100点満点。人間的に ultra-mature でキャプテンの重圧も自身の成長にうまく転嫁させました。ちなみに下の動画は自分が今までに見たなかで一番好きなインタビューです (笑)。

 

プレーに目を向けるとやはりパスには特別なタレントを感じます。映像をとおして俯瞰的にみている視聴者にすら予測できないコースに、受け手に対して”次に何をすべきか” のメッセージを込めたパスを抜群のウェイトとタイミングで通したりします。敵が密集している場合にはロブパスで相手の頭上を抜くことも...ブロックをこじ開けるための引き出しも多いチームの司令塔。その上、攻めにいく場面とゲームを落ち着かせる場面をよく理解している最高の Pausa プレイヤーの1人です。コントロールやターン、パス精度の高さを活かし、ボールを安全かつスムーズに循環させることができます。

加えて、昨シーズンは得点が大幅に増加。左サイドからのロークロスに走り込むタイミングに磨きがかかっただけでなく、そこで自信を得たのか、ゴール前で落ち着いて相手をかわす余裕を見せたり、シーズン終盤にはペナルティエリア外からのミドルシュートでもゴールを奪うようになりました。アーセナル加入直後はシュート意識が低いと批判されたりもしましたが、それも今や昔のはなし。フィテッセ時代も半分以上がエリア外からの得点だったので、技術があがったというより、チームの構造が整理されたことでシュートを打つタイミング、さらには自信を取り戻したといった方が正しいのでしょう。

我らがキャプテンは守備でも見せます。決して1対1を制するためのパワーや瞬発力に秀でているわけではありません。しかし、クレバーなプレッシング、粘り強いチェイシング、味方の1on1にタイミングよく割り込んでボールを掻っさらう動きなどに秀でています。チームの組織的な守備における貢献度は絶大です。

さらなる成長のための改善点をあげるとするなら、第一に、ピッチコンディションが悪かったり相手のプレスが強烈な場合のパフォーマンスをもう少しあげてほしいですね。上述のとおり ultra-mature なキャラクターですが自信の低下とパフォーマンスが連動する少しナイーブな側面があり、精密機械がたまに誤作動を起こすような状態になります。プレス耐性がもうワンランク上がるとよいのかもしれません。もう1つはアシストを増やしてほしいです。デブライネやB.フェルナンデスと比較するとその部分では少し見劣りします。チーム戦術とポジションによる部分が大きいですが、カウンターからのスルーやカットバックといったゴールに直結しやすいパスが少なく、その結果としてアシストが伸びにくいように思えます。あれだけのパスセンスを誇るだけに、あと少しアシストが増えれば、プレミア最高のプレイメーカーと呼ばれる日も遠くないでしょう。

 

2)エミール・スミス=ロウ

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ファンの期待をサカとともに背負うヘイル・エンド出身の背番号10。2018年夏のプレシーズンツアーでアトレティコ・マドリード相手にファインゴールを決めたのがファンから大きな注目を集めるようになったきっかけだったでしょうか?

その後、2018/19シーズンと2019/20シーズンにライプツィヒとハダースフィールドにそれぞれ半年間のローン移籍。前者では故障もあり試合経験を積めませんでしたが、ライプツィヒが獲得に動くと報じられたように一定の評価をされていたようです。後者では、移籍する際にアルテタから「君のプレーは見ないが周りの人間の評価を見る、人間的に成長してこい」と発破をかけられて送り出されたそうです。降格争いを繰り広げるチームでコンスタントに試合出場し、成長することができました。

翌2020/21シーズンはアーセナルに復帰しますが序盤は故障で出遅れ。大きなきっかけとなったのは記憶に新しいボクシングデイのチェルシー戦。それまでNo.10不在で絶望的なほどの得点力・クリエイティビティ不足に陥っていたチームを一気に復調させるカタリストとなりました。以来、2021/22シーズン前半のマンチェスター・ユナイテッド戦で途中退場するまでコンスタントに活躍、復帰後もリードして迎えた試合終盤に投入されカウンターから得点を決めるなどスーパーサブ的な活躍を果たします。しかし、そこから徐々に出場機会を減らしていき、2022/23シーズンは開幕直後に長らく苦しんでいたグロイン・ペイン完治のために手術を受けて長期離脱。シーズン中盤に復帰するも好調のチームにうまく入り込めず出場機会を全く得られずシーズンを終えました。

選手としての特長をあげると、1) ドリブルによる縦への推進力、2) 左右両足からの強力かつ正確、相手GKのタイミングをずらす間合いのシュート、3) 相手に囲まれても簡単にボールを失わないキープ力、4) 味方のためのスペースや攻撃のスイッチを入れるオフザボールのラン、といったところでしょうか。反転ターンからの縦への突進はシグネチャームーブともいえ、エジルのような爽快感があります。

課題は pausaプレーと守備強度でしょう。アルテタ・ボールはゲームのコントロールに重きを置くため、pausaプレイヤーを複数起用する必要があります。ロウは攻撃のスイッチを入れるプレーは得意ですが、ボールをゆっくり回しながら崩しどころを探るような際に空気になりがちです。Pausaプレーに十分適応できない時点で、ウーデゴールやジャカに対して大きく見劣りしてしまいます。同じことは守備強度についても言え、ポジショニングを守ろうとする意識は感じられますが、ガビやウーデゴールがチームに活を入れるかのようなインテンシティを示すのと比較すると存在感があまりに希薄です。

チームが絶不調のときに颯爽と登場したり、古き良きアーセナルを感じさせるプレイスタイルからファンの間での人気がきわめて高い選手です。しかし、故障が多く順調なキャリアを送っているとはいえません。そのため、他サポからはウィルシャーの再来と揶揄されることも...ベスト・ポジションがはっきりしない点でジャックに通じる部分もあります。しかし、ようやく故障が完治しました。ここから再び成長軌道へと戻ってくることを期待したいです。ただし、現在の厳しい競争環境においては試合出場機会を得られるかどうかも本人次第です。来季の前半戦次第では試合経験を積むためにローン移籍に出される可能性もゼロではありません。ファンの期待を裏切らないためにも兎に角、結果を出してほしいです。

 

3)ファビオ・ヴィエイラ

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2022年6月に突如加入しました。所属していたポルトがUEFA-FFP違反でCL/EL出場権をはく奪される目前だったため、代理人のホルゲ・メンデスが売り込んできたと推察されます。

ポルト時代は2022年1月にルイス・ディアスがリバプールに移籍したことで出場機会を増やし20GA、90分換算で1.15GAという素晴らしいスタッツを残します。アーセナルは同年夏の移籍市場にて当初はティーレマンス獲得に動くと予想されていましたが、結果的にヴィエイラがベルギー人に代わって加入。アルテタは常々チームをワンランク上に引きあげる補強の必要性を唱えており、2021/22シーズンにCL出場権を逃す大きな原因となった得点力不足の改善のため ヴィエイラ獲得に踏み切ったものと思われます。

ヴィエイラの最大の長所は魔法のような左足からのクロスやシュートです。右のハーフスペースからDFラインの裏側にやわらかいクロスを放り込んでアシストしたり、力の抜けた状態からワンステップで鋭いシュートを放つことができます。

シーズン序盤は主にELで起用され、シーズン後半はジャカとの途中交代で左IHのポジションに入るなど散発的ながら出場機会を増やしていきました。90分換算でのゴールやアシストのスタッツは悪くありません。しかし、ビルドアップでの貢献や敵陣でのボール循環においてうまくチームに入り込めない試合が目立ちました。体の線が細くジャカと比べると守備面での貢献の低さも歴然。攻撃面でのベストポジションはおそらくウーデゴールが君臨する右IHですが、アルテタは相手の固いブロックを崩すために左サイドからデブライネやアーノルドのような鋭いクロスを順足で上げてほしいのかもしれません。

2023/24シーズンはハヴァーツが加わり、スミスロウも復活を期すなど厳しい競争が予想されます。シーズン前半戦で結果を残せないと冬の移籍市場では試合経験を積むためにローン移籍する可能性もなきにしもあらず。正念場とも言える状況なので自らの存在価値をアピールしてほしいですね。